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「トラックドライバーは高齢化している」「運送業界は人手不足だ」——ニュースで何度も聞いたフレーズだと思います。ただ、現場から見ると、世間のイメージとは少しずれています。
人手不足というと、「きつい仕事だから人が辞めていく」と思いませんか。私が現場で見てきた実感は違います。若い人が入ってこない。そして、経験と技術のあるベテランが定年で去っていく。入口が細くなり、出口から熟練者が抜けていく。この二重構造が、いま業界で起きていることです。
そしてもうひとつ、数字には出てこない深刻な話があります。ベテランが持っていた技術が、次の世代に引き継がれないまま消えていっていることです。私は現役の海上コンテナドライバーで、社内で新人指導も担当してきました。この記事では、統計の数字と現場の実感の両方から、「なぜ人が足りないのか」の本当のところを話します。
数字で見るトラックドライバーの高齢化

まず数字を押さえておきます。厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、大型トラック運転者の平均年齢はおよそ50歳。全産業の平均より5〜6歳高い水準です。全日本トラック協会の実態調査でも、男性運転者の平均年齢は49.7歳(2024年度)と報告されています。
年齢構成を見ると、もっとはっきりします。道路貨物運送業で働く人は40代・50代が中心で、29歳以下の若年層はおよそ1割。全産業平均と比べて明らかに少ない数字です。つまりこの業界は、「50歳前後のベテランが主力で、その下の世代が薄い」逆ピラミッド型になっています。
一方で仕事の量は減りません。自動車運転の職業の有効求人倍率は、時期によって差はあるものの、近年おおむね2倍を超える水準で推移しています。1人の求職者を2社以上が取り合っている状態です。
参考:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」職業別の有効求人倍率、公益社団法人全日本トラック協会「トラック運送事業の賃金・労働時間等の実態(2024年度版)」。数値は調査時期によって変動します。
この数字が意味するのは単純です。主力の50歳前後が、これから順番に定年を迎えていく。そのとき、代わりがいない。高齢化問題の正体は、「年齢が高い人が多い」ことではなく、「次がいない」ことです。
なぜ若い人が入ってこないのか——入口が細くなった

私の会社も含め、どこの運送会社も中途採用が中心です。他の運送会社からの移籍、異業種からの転職、定年後の再就職。新卒や20代の若手が「最初の仕事」としてトラックを選んで入ってくるケースは、体感としてかなり少ない。なぜか。私は入口そのものが細くなったからだと見ています。
そもそも普通免許を取らない
昔は、とりあえず普通免許を取って、車の運転が好きになって、その流れでトラックに乗る——そういう入り方をした人が一定数いました。今はその流れの一番手前、「普通免許を取る」の段階から細くなっています。
特に都市部では、電車とバスで生活が完結します。しかも車を持てば、税金、保険、燃料、修理と、維持するだけで金が飛ぶ。若い人の給料は上がらないのに、車のコストは上がる一方です。車を持たない選択は、今の若い人にとって合理的なんです。ただその結果、運転という仕事への入口から遠い人が増えました。ドライバー需要が大きい首都圏で、車を持たない若い人が増えているのは皮肉な話です。
誤解しないでほしいのは、私は「今の若い人には無理だ」とは全く思っていないことです。普通免許から準中型、中型、大型、けん引と段階を踏む制度も整っています。むしろ飲み込みの早い若い人ほど、乗ればすぐ戦力になります。教えてきた私の、正直な実感です。入ってこないのは能力の問題ではなく、入口までの距離の問題です。免許のステップは未経験からトラックドライバーになる完全ガイドにまとめてあります。
ブラックイメージと2024年問題——「きついのに稼げない」の誤解

入口が細くなったもうひとつの理由が、イメージです。長時間拘束、安月給、力仕事、ガラが悪い。運送業界と聞いて浮かぶ言葉はだいたいこのあたりだと思います。
現役として正直に言います。これらは全部、「会社による」です。長時間拘束——会社による。安月給——会社による。力仕事——会社による。ハラスメント——会社による。同じ業界の中に、天国と地獄が同居しています。だからこの業界は会社選びがすべてなんです。
ところが、外から見えるのは地獄側だけです。テレビやネットの特集で取り上げられるのは、眠らずに走るドライバー、荷物を手で積み続けるドライバー、帰れないドライバー。絵になるのはそっちだからでしょう。まともな会社で、時間を管理されて、しっかりした手取りをもらっているドライバーの日常は、映像として面白くないので流れません。私の周りのドライバーは、そういう特集を家で家族と夕飯を食べながら見て、「今でもこんな会社あるんだなあ」と言っています。これが現場の実感です。
そこに2024年問題が重なりました。残業時間の上限規制自体は、業界を健全にするために必要な流れだったと私は思っています。ただ、給料体系を変えないまま残業だけをカットした会社では、手取りが落ちました。「長時間働けば稼げる仕事」だったものが、「きついのに稼げない仕事」として報じられるようになった。ますます若い人が選ばない業界に見えてしまう。実際には、運賃を荷主に転嫁したり給与体系を組み直したりして手取りを守った会社もあります。この見分け方は2024年問題でも給料を落とさない会社の選び方に書きました。
「底辺職種」と言われることへの、現役の本音
SNSでは、トラックドライバーが「底辺職種」のように言われることがあります。これについて、現場の本音も書いておきます。
ほとんどのドライバーは、気にしていません。この仕事はどうしても職人気質の世界で、みんな自分の技術に誇りを持っています。「言いたいやつは勝手に言ってろ。俺はトラックが好きだ」——だいたいこの温度です。「はいはい、どうせ底辺ですよ」と自虐ネタで返す人もいます。底辺と言われたから転職を考える、なんて人は少なくとも私の周りには一人もいません。みんなこの仕事の良さを知っているからです。
ただ、そう見られてしまう理由の一部が業界側にあったことも、否定はしません。昔のトラック業界は運転が荒かった。歩合制の会社が多く、速く走った分だけ稼げた時代です。大型車にスピードリミッターの装着が義務づけられたのは2003年からで、それ以前は物理的に飛ばせました。遅い車を煽る、クラクションを鳴らす——そういう振る舞いが「トラック野郎」のイメージを作り、形を変えて令和の今も残っている気がします。今、同じことをしたら会社からこってり絞られます。ドラレコと運行管理で、荒い運転はすぐバレる時代です。イメージと実態の間には、20年分のズレがあります。
ベテランが定年で去っていく——人手不足のもう半分

ここからが、この記事で一番話したいことです。人手不足の話は「若手が入らない」側ばかり語られますが、現場で体感する深刻さは逆側にあります。経験と技術のあるベテランが、定年でごっそり抜けていくことです。平均年齢50歳の業界で主力が50代ということは、これから毎年、熟練者が順番に現場を去っていくということです。
私が忘れられない先輩がいます。見た目は大工そのもの。ゴリゴリの職人気質で、トレーラーバックの技術が別格でした。入口も前の道路も狭く、目の前にはポールや街路樹がある。まっすぐ入れないから、角度を作って入るしかない。多くのドライバーが何度も切り返すような客先に、その先輩は何でもないことのように一発で入れてしまうんです。ああいう技術は、長い年月と数え切れない現場が作るものです。
そういう人が定年で辞めていくとき、会社が失うのは「1人分の労働力」ではありません。その人が30年かけて積み上げてきた技術と判断力が、まるごと消えるんです。
技術が継承されない——数字に出ない一番の損失
私は社内で新人の添乗指導もやってきました。だから断言できますが、この仕事の核心的な技術は、口だけでは教えられません。
代表例がトレーラーのバックです。理屈は説明できます。でも、ハンドルを何センチ、どのタイミングで切るかは、最後は本人の感覚です。実際に見せる、横に乗る、危なければ止める、やり直させる——全部やりました。それでも結局、数をこなさせる以外に方法がない。だから私は会社に、廃車予定のぶつけてもいいシャーシと廃コンテナを構内に置いて、練習用にさせてほしいと打診したことがあります。結果は却下でした(笑)。うちの会社は適性検査や泊まり込みのドライバー研修までやる、教育には熱心なほうの会社です。それでも、技術を練習させる「場」を常設するのは簡単ではない。ましてや教育に金をかけない会社なら、なおさらです。
技術は運転だけではありません。たとえば海上コンテナの仕事には、ビールの原料のモルトなどを、コンテナごとダンプさせてサイロに流し込む作業があります。コンテナの扉を開けて、ダンプヘッド(荷台を傾けられる専用のトラクター)でシャーシごと傾け、中身を流し出すんですが、ただ上げればいいわけではありません。サイロ側で作業している人とタイミングを合わせながら、少しずつ前へ進んだり、途中で止めたり、中身の流れ具合を見たりする必要があります。いきなり別のドライバーが「明日から代わりに行って」と言われても、現場の勝手が分からなければ簡単にはできません。こういう熟練が要る作業は、海コン以外の分野にもたくさんあります。
私の世代までは、まだ引き継がれたと思っています。教えてくれるベテランが現場にいて、数をこなす時間もあった。でもこれからは、教える側が定年でいなくなり、教わる側の若手がそもそも入ってこない。技術の受け渡しが成立しない会社が、これから増えていくと私は見ています。そうなると何が起きるか。その作業ができる数少ないドライバーを、会社が「辞めないでくれ」と引き止める。辞めるに辞められないベテランが増える。人手不足は、頭数の問題から「特定の技術を持つ人がいない」問題に変わっていきます。
最後に、あの大工みたいな先輩が新人の私に言った言葉を書いておきます。技術と一緒に、こういうマインドも本当は継承されるべき財産だと思うからです。
トレーラーに乗ってるだけで、はたから見ればすごいことなんだ。道路からのバックで渋滞を作っても、焦る必要はない。まずはぶつけず、事故らず、人を傷つけずに、お客さんのところへ荷物を届けるのがお前の仕事だ。時間を取らせた相手には、ちゃんと頭を下げれば、みんな分かってくれる。
でかいのは車であって、乗ってるお前じゃない。威張るな。周りの車をフォローする気持ちで運転しろ。そこまでできて初めてプロだ。常に勉強だと思って走れ。
バックの技術だけじゃなく、この言葉に私は何度も助けられました。こういう先輩たちが、いま順番に現場を去っています。
それでも私がこの業界を勧める理由——人手不足はチャンスでもある
ここまで暗い話が続きましたが、私はこの業界を悲観していません。むしろ、外から見ている人にこそ知ってほしいことがあります。
会社を選べば、時間の管理としっかりした手取りは両立できます。労働組合が機能していて、待遇を守ってきた会社は実在します。走り方と会社次第では、年収1,000万円に届くドライバーも現実にいます。私の周りにもいます。メディアはこちら側をほとんど取り上げませんが、業界の中にはちゃんと「当たり」があるんです。大手と中小どちらに当たりが多いかは一概に言えないので、大手と中小の違いの記事を参考にしてください。
そして、ここまで読んだ通り、業界は深刻な人手不足です。それは働く側から見れば、会社が人を選ぶ時代ではなく、ドライバーが会社を選べる時代だということです。ベテランの技術が失われていくのは業界の損失ですが、裏を返せば、これから技術を身につける人の価値は上がる一方です。40代・50代からでも遅くないことは、40代・50代の未経験からトラック運転手になれるのかを解説した記事で実例つきで書きました。
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よくある質問(FAQ)
Q. トラックドライバーの平均年齢は何歳ですか?
厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、大型トラック運転者の平均年齢はおよそ50歳で、全産業平均より高い水準です。また、道路貨物運送業全体で見ても若年層は少なく、29歳以下はおよそ1割にとどまります。数値は調査年によって変動するので、最新の統計で確認してください。
Q. 運送業界の人手不足は、これからもっと深刻になりますか?
主力の50歳前後が順番に定年を迎える一方で、若年層が薄いままなので、構造的には厳しくなる方向だと私は見ています。ただし全社一律ではありません。待遇を改善して人を集められる会社と、集められない会社に二極化していくはずです。働く側にとっては、条件のいい会社を選びやすくなる面もあります。
Q. 2024年問題でドライバーの給料は下がったのですか?
会社によります。給料体系を変えずに残業だけカットした会社では手取りが落ちました。一方で、運賃の交渉や給与体系の見直しで手取りを守った会社もあります。見分け方は2024年問題でも給料を落とさない会社の選び方で詳しく解説しています。
Q. 未経験ですが、人手不足の今なら採用されやすいですか?
採用されやすい状況ではあります。有効求人倍率は近年2倍を超える水準で推移しており、未経験歓迎の求人も多い。ただし「誰でもいいから来てほしい」だけの会社が混ざっている点は要注意です。全体像は未経験からトラックドライバーになる完全ガイドから入るのがおすすめです。
まとめ:数字より先に、現場から技術が消えていく
トラックドライバーの高齢化と人手不足の正体は、「若い人が入らない入口」と「熟練者が定年で抜けていく出口」の二重構造です。そして統計に載らない一番の損失は、一発で決めるバックも、モルトの下ろし方も、「威張るな」という教えも、引き継ぐ相手がいないまま現場から消えていくことです。
それでも、この業界の中に良い会社と良い仕事があることを、私は現場から保証します。メディアやSNSの情報に振り回されないでください。会社選びを間違えたら命取りなのは、この業界に限った話ではありません。もし興味が湧いたなら、現役で比較した転職サイト3選から、実際の求人を自分の目で確かめてみてください。
※本記事は筆者自身の経験と見聞きした範囲の話に基づく内容です。統計の数値は調査時期によって変動します。最新の情報は厚生労働省・国土交通省などの公式統計および各求人の募集要項で確認してください。
